ーなぜ“原題:LES HERITIERS(相続者たち、後継者たち)”というタイトルを選んだのですか?
映画が出来上がってから思いつきました。この言葉を、今の多様なコミュニティーの出身で、多様な宗教背景を持つ若者たちに結びつけることに大きな喜びを感じます。さまざまな出自を持つ若者の顔とこのテーマをつなぐのは、珍しいかもしれませんが、この映画で重要なのは「héritage (遺産、継承)」についての問いだと思います。私達は何を受け継ぐのでしょう?それから私達は私達の「héritiers (後継者たち)」に何を残すのでしょう? 歴史の遺産をどう扱うのか?文化的、社会的、歴史的遺産を無視すること、他者の遺産を理解することはできるでしょうか?何を守るのか?
ーこの映画は、自分自身の理論を譲らない人々のシーンから始まります。卒業した少女がバカロレアの合格証書をもらいにやって来ますが、校長は彼女がイスラム教徒のスカーフを頭に巻いていることを理由に学校敷地内に入れることを拒否します。
このいざこざは実際にレオン・ブルム高校であったことです。このシーンは「表現の自由」と「政教分離の原則」という2つの強い基本原則が対立した時の対話の限界を描いています。この少女は、在校中、公立学校敷地内ではスカーフを着用しないという法律を守っていました。公立学校の非宗教性を守るのは法律とは限らず、他のしくみも検討しなければならないと思います。アリアンヌ・アスカリッドが演じるゲゲン先生も、地獄、天国、最後の審判、カルヴァンなど、いつも宗教的なテーマを取りあげて授業をしています。
ー脚本に参加し、出演者でもあり、映画の原案者でもあるアハメッド・ドゥラメにはどうやって出会ったのですか?
アハメッドはレオン・ブルム高校の最終学年にいて、2012年に公開された私の映画“MA PREMIERE FOIS”を映画館で見たんです。それから、彼が書いた60ページほどの脚本の下書きを読んで欲しいとメールで連絡をしてきました。ストーリーは、文科系のコンクールのこと、ある高校にやって来て、このコンクールに参加させることで生徒たちを成長させていこうとする教師の情熱の物語でした。最初にアハメッドに出会った時、このコンクール、コンペティションのアイディアがどこから来たのか知りたいと思いました。そして、アハメッドと彼の同級生たちの人生が、「レジスタンスと強制収容についての全国コンクール」に参加し、優勝をしたことに強く影響を受けたと知りました。このコンクールの存在は知りませんでした。アハメッドにこの出来事について語ってもらい、この集合的な経験が大きく彼を変化させたということを感じられました。すぐに、 この話についての映画を作りたいという欲望が湧いてきました。
ー彼にそう言ったんですか?
もちろん。脚本に描かれていない話も、アハメッドが少しだけ触れたエピソードも、全てが感動的で驚きだと伝えました。世間一般が持つ敗北主義や、若者たちによく見られる無関心主義には流されないと決めた、この青年の道のりに心を動かされました 。 私に何が出来るかを聞いたら、驚いた様子でした。次にアハメッドに会った時に、彼の担任だったアングレス先生に電話をしました。先生は、 自分と一緒に過ごした1年間が、こんなにも一人の生徒に影響を与えていたことに、とても驚いていました。私たちは一緒に脚本を書き始めました。
ー映画の登場人物、アンヌ・ゲゲンのモデルとなった教師アンヌ・アングレスは、どのように生徒たちの心をつかむことができたのだと思いますか?代理の教師は全くうまく出来なかったのに。
よく理解するためにレオン・ブルム高校でアンヌ・アングレス先生の授業に何度も出席しました。彼女の愛情に満ちながらも権威を保ち、それが生徒との間に相互的な敬意を生み出している様子に感心しました。生徒たちはアングレス先生が厳しいという噂を聞いているので、始めはビクビクしていますが、1年が終わる頃には先生から離れることを悲しむのです。先生は生徒たちを、彼らが想像するはるか上のレベルまで成長させてくれるのです。他にも、様々な高校の授業に出席しました。今の高校 1年生というものがどういうものか理解したかったのです。たいていの教師は軽い口調で話し、生徒はポケットの中か膝の上にある携帯電話のバイブに気を取られながら、授業をチラチラ見ています。突然身をかがめてメールを送る。教師の声は切り離されていて、教師の話は生徒たちと結びつくことがありません。
ー本作が描くのは今の一般的な高校1年生の真逆です。思春期の子供たちが、遺跡くらいにしか考えてなかったひとつの歴史が、自分たちに密接に関係しているのだと発見するのです。
この話は反抗的な子供にも情熱を持たせることができる、と伝えています。生徒たちは能動的になって初めてコンクールに興味を持ち始めます。その重要なきっかけは、思春期に強制収容された、証言者、レオン・ズィゲルとの出会いです。レオンは学生を前に自らの体験を語ることに慣れていて、それは70年にわたる彼の使命でもあります。この、歴史が宿った目、視線との出会いは、このコンクールに参加したすべての生徒を大きく動かすきっかけになりました。私は、レオン・ブルム高校で、アハメッドがコンクールのための準備をしていた時に実際に高校にやって来たレオンの出演を強く希望しました。
ーゲゲン先生を演じる素晴らしい女優、アリアンヌ・アスカリッドはどのように選んだのですか?
本を読んだ彼女のエージェントから勧められました。初めて彼女に出会った時、ある特定の価値観を擁護しようという強い意志を感じました。彼女が脚本について話すとき、 単に脚本を読んだ女優が話すのとは全く違いました。彼女は問題意識を持った市民であり、レジスタンスの魂を持ち、そういう性質すべてに心を動かされました。でも少しだけ“変えたい”ところがあって、髪の毛を切ってもらいました。アリアンヌはアンヌ・アングレスと同じようなエネルギーとバイタリティを持った女性です。